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伊達家家臣・伊達成実に関する私的資料アーカイブ

『名語集』9:刀脇差の鞘柄

『名語集』9:刀脇差の鞘柄(刀脇差の鞘と柄)

原文:

一、或時の御咄に、「男の命は刀・脇差なる間、鞘をよくして、ねたばをつけて、刃の抜けぬ様に、鞘止よくしてさせ。主の用にもたち、我が為にもなるなり。油断勿体なし。さいさい手討などする時も、常によければ少しも子細なし。常に念を入れ、よくしてさせども、其の時になれば、ここかしこにゆかしき事、あるものなり。常々ふだしなみならば、用に立ちおとるべし。惣別、若き者などの心持には、何時も一刀にて納むべきと思ふべからず。一刀打付け切れずば、叩き殺すべきと覚悟持つべし。又当世は見てよきはやり物とて、知りたるも知らぬも、柄をふとく長く、色々の糸巻にしてさす。皆、手に覚えぬ人まねなり。結句、若き者ども、昔様は柄細く革にて巻く、見苦しきと申すげに候。昔男は表にかまはず、朴の木柄をあざむき、樫の木柄を好む。革よりもよきとて、糸縄を好む。只、用にたてての所ばかり、物数寄あり。誠に当世嫌ふ革細柄にても、其の身の程は見事用立ち候が、革柄にましたる糸柄にても手柄さのみきかず。はやり物とても、手におぼえぬ人まねは如何。尤も糸柄にも、仕合よき者のさしたるをまねん。とかくかやうの道具は、人まねはせずして、面々の勝手次第が、ましなり。何事も覚えある古き物を手本に」と、御咄遊ばされ候事。

地名・語句など:

寝刃:切れ味の悪くなった刀→合わす
鞘止:
勿体なし:無駄にするには惜しい/畏れ多い/不都合である、もってのほかである
さいさい(再再):たびたび、何度も
子細:詳細/事情/込み入った訳/異議
ゆかし:心惹かれる/懐かしく感じる/好奇心がそそられる
ふだしなみ(不嗜み・無嗜み):普段の心がけが足りないこと
結句:とどのつまり、結局
げに(実に):本当に、まったく、実に
朴(榎):えのき、ホオノキ
欺く:騙す/馬鹿にする/非難する

現代語訳:

あるときはこのようなことを仰せになった。
「男の命は刀と脇差であるので、鞘をよく手入れし、切れ味の悪くなった刃を手入れし、刃の抜けないように鞘止めをちゃんとして、差せ。それが主の役にもたち、自分の為にもなる。油断するのはもってのほかである。たびたび手討ちなどをするときも、常に状態がよければ、少しも失敗することはない。常に念を入れ、状態をよくして差していても、そのときになればここかしこに気になることがあるものである。常日頃からきちんとしていなければ、役に立たないだろう。
とくに、若者の考えでは、いつも一刀で物事がすむだろうと思ってはいけない。はじめの一太刀で打ち付けて切れなかった場合は、叩き殺してやるという覚悟を持つべきである。
また、最近は見ていい流行り物として、剣術をわかっている者もわかっていない者も、柄を太く、長くして、色とりどりの糸巻きにして差している。これはみな、腕に覚えのない人のまねである。結局、若い者たちは、むかしの刀は柄が細く、革で巻いている。格好良くないと言うのだという。
昔は、男は表面上の格好良さなどを気にせず、榎の木の柄を嫌がり、樫の木でできた柄を好んだ。革よりもよいといって、糸縄を好んだ。それはただ、役に立つようにというところにだけこだわりがあった。
今嫌われている革の細い柄のことにしても、そのころは見事役にたっていたが、革柄に勝る糸柄であっても、手柄をそれほど聞かない。
流行り物であっても、腕に覚えのないが人まねをするのは如何なものであろうか。もっとも、糸柄でもきちんとしている者の差しているものを真似なさい。とにかくこのような道具に関しては人まねをせず、それぞれのちょうどよいように選んだ方がましである。なにごともきちんとした古い物を手本にしなさい」

感想・メモ:

政宗の武具に対する心得の話、続きです。
最近の若い者の流行りに眉をひそめ、真似ではなく自分の特徴と合う物を選びなさい、と言っています。
一太刀で無理なら叩き殺す気持ちで…ってところに戦国を感じますね…。こええ。