『伊達日記』122:秀吉の贈り物
原文
一御普請場へ日々成せしめられ候。十月始寒時分惣の大名衆へ風をふせぎ候への由にて。長持に紙絹を御入町場を御廻り候て移に下され候。政宗は物ずきを仕候へども紺地の金襴。袖は染物にすりはくの入候を御付。すそは青地の段子色をとり合候呉服を下され候。其砌政宗大坂御上下の御座船を御身上成られ。御感の由に候而光忠の御越物を下され候。其明る日御普請場へ政宗彼刀を御差御目見候処。昨日政宗に刀をぬすまれ候間取かへし候へども御免なされ候間参候へと御意成られ候。或時御所柿を御入成られ諸大名へ下され候。政宗町場へ成らせしめられ。政宗は大物ずきにて候間。大き成がのぞみに候はん由御意にて。折の中を御取りかへし候て是より大きなるはなきとて下され候。諸人にすぐれたる御意共度々候を何れも御覧候而。政宗は遠国人にて一両年の御奉公に候。かくのごとく御前よきこと冥加の仁にて候と御取沙汰候なり。
語句・地名など
現代語訳
秀吉は、普請場へ毎日のようにいらっしゃった。10月のはじめ、寒いころであったので、すべての大名衆へ、風を防ぐようにと、長持ちに紙絹の衣を入れ、町場をお回りになり、手ずからお渡しになった。
政宗は数寄者であるので、と紺地に金襴、袖は染め物に摺箔が入ったものを付け、裾は青地の緞子を合わせて、衣類をくださった。
その頃政宗は大坂を行き交う御座船を作り、献上したところ、秀吉は感心して、光忠の刀をくださった。その明くる日、普請場へ政宗はその刀を差して面会したところ、秀吉は「昨日政宗に刀を盗まれたので、返せ」と仰ったのだが、お許しになり、こちらへ来いと仰せになった。
あるとき、御所が気をお持ちになり、諸大名へ下さった。政宗の持ち場へ来られたところ、「政宗は大きいものが好きだろうから、大きいのが欲しいだろう」と仰り、箱の中をひっくり返して、これより大きいものはないと、くださった。
格別に目をかけてもらっているのを、他の人々は見て、政宗は遠国の人間であり、数年の方向であるというのに、このように秀吉の心証がいいのは、すごいことだなあとお噂なさった。
感想
伏見城の工事の途中の出来事がいくつか書かれています。
ここは政宗がどのように気に入られていたかということよりも、秀吉の人心掌握術というか、どのように諸大名に接していたかを垣間見ることができておもしろいです。