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伊達家家臣・伊達成実に関する私的資料アーカイブ

『名語集』7:万事に気を付く

『名語集』7:万事に気を付く(すべてのことに気を付ける)

原文:

一、或時の御咄に、「人は只、高下共に、万事気を付くる事、第一なり。たとへば、主君の用事か自身の用にても、余所より宿にかへる時は、供の者一人もあらば、屋敷の前よりさきにつかはし、只今かへると言はせよ。供なくば、表に立ちて内にて聞き知る様に小咳をして、さて内へ入るべし。子細は、何としても召使ふ者は、其の主人留守の間は油断して、不行儀も色々様々多かるべし。音して入る時は、皆々油断なし。油断なければ、内に怪我なし。いかに身上軽き者なりとも、音なしに入りて、あしき事、度々見重なるときは如何。まづ一通りは、身の上叶はぬと聞えたる人、口にも免すべきが、あしき事重なる時は、曲事言はで叶ふまじき事なり。さある時は我が身迷惑ながらも、申付けずして叶わず。少しの事のかさなり、人を失はん事は、何より以て迷惑なり。我が身少しの心持にて、大きなる損出づるなり。かやうの品々は、あなたの咎にてなし。こなたのしかけに有るべき事なれば、手前の不覚悟にてあらずや。よくよく心持せよ」と、御咄遊ばされ候事。

地名・語句など:

怪我:そそう、過ち/負傷

現代語訳

あるとき、このようなことをお話になった。
「人は、身分の高い者も低い者も、すべてのことに気を付けることが一番重要である。たとえば主人の用事か、自分の用かであっても、外出先から宿に帰るときは、供の者がひとりいるならば、屋敷の前よりさきに遣わし、『ただいま帰る』と言わせなさい。供がないばあいは、表に立って、中でわかるように小さな咳をして、それから中へはいりなさい。
どうしてかというと、どうしても召使いたちは、主人が留守の間は油断して行儀の悪いこともいろいろ多いのだろう。音をさせて入るならば、みな油断することはない。油断がなければ、中で粗相することもない。
いかに身分の低い者であっても、音をさせずに入って、都合の悪いことを度々見てしまったときはどうすべきか。まず一通りは、首になっては困る者は口頭にて注意し、許すべきであるが、悪いことが重なるようであれば、口で注意をしなくてはいけない。少しの事が重なって、人を失うことは何よりも大変なことである。
自分の少しの心がけで、大きな損が生まれてしまう。このようなことは、相手の咎ではなく、こちらの心がけのせいであるので、自分の失敗でないことがあろうか。よくよく心がけよ」

感想・メモ:

日々心を配れという教訓の項です。
日々気を付けて…というからには、色々なことに気を配れということかと思いきや、油断して気がゆるみがちな下働きの者たちを即罰するのではなく、それらが働きやすいよう気を付けてすごせという話で、人をどう扱うかという話になっています。政宗は愚鈍な者・不心得な者がいたとしても、その人の性質を見極め、うまく使ってこそいい主人であると思っていたような感じがありますね。